第九説 中編雪は澤開と向き合っている赤い髪の男を見て首をかしげる。「・・・てか、こいつ誰?(あっ!クソッ!口癖封印してたのにぃぃ!!!ま、いいや。)」 (こ、こいつは白原 雪!!ってことはこのメガネも仲間か・・・) 「え~っと、こちらのかたは・・・・・・熱血 髪さんです。」 澤開は適当な名前を紅炎につけた。 「へぇ~変わった名前だな。てか、奇抜。」 雪はそれを不思議に思わずに、紅炎を熱血 髪と思い込む。 「んなわけねぇだろ!!せめて『髪』じゃなくて『神』の方にしろよ!!だいたいなぁ・・・」 紅炎がマイワールド(つっこみで)に入り込んでいる間に澤開が雪に耳打ちをした。 「あの人も私達と同じく、元動物です。そして、恐らく敵です。」 「マジかよ!!ぶっ潰す!!」 雪は敵だとわかった瞬間に紅炎のことを殴りにかかろうとする。澤開はそれを計算内というような感じで雪をあせらずに止めた。 「なっ・・・」 澤開は雪の口をふさぐ。 「おそらく今のあなたの実力だとあの人には勝てません。たとえ、不意打ちでも。」 雪は澤開の手を口から外した。 「そんなに強ぇのか?」 「おそらく。」 雪が考え込む。 「んじゃあどうすんだよ!!」 「私は普通でも不意打ちでも勝てないと言いましたが、皆で戦っても勝てないとは言ってませんよ。」 雪はハッとした。 「ってことは、おれらが力を合わせれば・・・」 澤開がいつもの微笑みとは違う笑顔を見せる。 「はい。おそらく。協力してくれますか?」 「おうよ。まだ死にたくねぇからな。んで、おれはなにをすればいいんだ?」 「雪様はこの人にばれないように幽海様を呼んできてください。あの人がこちらに気付いたら私の話術でなんとかしますので。そして、いざ戦うことになったらの話をしますと、とりあえず母樹様を無理やり起こします。おそらく・・・・・・」 雪が思う。(こいつは本物の鬼だ・・・。母樹は一応脳震盪で倒れてんだぜ。それを無理やり起こすって・・・。) 「雪様?聴いていますか?」 「・・・ん?あ、ああ。聴いてるぜ。」 「では、続けます。先ほども申したように、あの人はおそらくあの大きいブーメランを使うでしょう。となると、この狭い廊下だと投げたブーメランは壁に刺ぶつかるなどをして、こちらまでブーメランはとどきません。なので、最終的には接近戦になるでしょう。接近戦になった場合は私達を守ってください。弓だと接近戦は不利なので。」 澤開がいつもの微笑みに戻った。雪は返事もせず、澤開に言われたとおりに幽海を呼びに1214号室に音をたてずに入り込む。澤開はとりあえず、背中に担いである母樹がじゃまだったので、乱暴に床に下ろした。というよりも、落としたという表現のほうがたしかだろうか。母樹を落としたときにずれたメガネを上げ、そして、紅炎のマイワールドから帰って来るの待った。幽海を呼びにいった雪は、幽海に苦戦している。1214号室に入り込んだ雪は、すぐに幽海を呼んだ。 「幽海!!敵だ!!」 雪の声に気付き、幽海が部屋の奥から出てくる。 「セッちゃんだ。よく辿り着いたね。まぁ疲れたでしょ?お茶でも飲んで、疲れを取ろう♪」 幽海はそういうと部屋の奥に戻っていった。 「んまぁなんとかな。・・・ってこんな話してる場合じゃ・・・」 「ほらほら♪お茶の用意ができたよ~♪」 「おっ!マジで!?サンキュ~♪」 そういうと、雪は靴を脱ぎ、幽海とあったか~いお茶が待つ部屋の奥に吸い込まれるように入っていった。雪はすっかり幽海のペースに飲み込まれてしまう。幽海は雪にとってはある意味最強の敵である。雪は正座で座布団に座り、お茶の入った湯飲みを手にし、お茶を飲んだ。 「はぁ~お茶が体に沁みる~」 雪がお茶を一杯飲み終わると、真っ赤な髪の男のことを思い出し、立ち上がる。 「そうだった!!幽海!・・・」 「おかわり?はい、どうぞ。」 「おう、サンキュ♪」 また座布団に正座で座った。2杯目のお茶を味わう。雪が2杯目のお茶を飲み始めるとき、廊下では、紅炎がマイワールドから帰ってきていた。 「んで、おれの本名は城ヶ咲 紅炎だ!」 澤開は猫無達が戦っている1213号室のほうを向きながらあいづちを打つ。 「そうなんですか。」 澤開の関心のなさに紅炎はキレた。 「くそっ!ほっんとムカつくなぁ~おれ、おまえ、だいっ嫌いだ!!!」 紅炎は背中のブーメランを手に取り、澤開と距離をとる。そのときだ。母樹が目を覚ましたのは。 「殴られることはないってどういうことですか~?澤開が守ってくれるんですかぁ~?」 「私はそんなことは一切しません。」 遠くで紅炎が自分自身に疑問を抱いていた。 「おれってそんなに存在感うすい?いや、少なくてもラキと戦う前まではあったはずなんだけど・・・」 紅炎の周りが暗くなったような気がしなくもない。その空気を母樹も澤開も感じ取った。 「今、矢を射っても届きますかねぇ~」 「さぁ?この世の終わりのような顔していますしね。」 紅炎の周りの重苦しい空気に射った矢さえも紅炎に届く前に下に落ちそうだ。 「とりあえず射ってみますかぁ~。」 澤開が《蛇化》に変化する。母樹が《蛇化》を手に取り、飾ってある花瓶を触った。その花瓶は一本のガラスの矢となる。そして、母樹が《蛇化》の弦を引き、ガラスの矢を紅炎に放つ。紅炎に向かって飛んできたガラスの矢を静かにブーメランで受けた。切れ味のいいガラスの矢が静かにブーメランの表面に刺さる。いつもの紅炎なら矢を受けることをしないで、避け、すぐに反撃に移っていたであろう。 「はぁ~・・・」 紅炎が深く溜め息をついた。 『・・・立ち直るには時間が必要なようですね。』 「少し待ちましょうか~。そういえば、ラキ君達のほうはどうなったのですかぁ~?」 母樹は気絶しているうちに1214号室から外に連れてこられたので、猫無達がどうなっているのかを知らない。 『余裕って言っていましたよ。』 澤開は母樹の気がそれないように、うそをついた。 「そうなんですかぁ~。では、わたしが心配することはありませんねぇ~。」 安心する素振りは見せなかったが、内心かなり安心した。安心すると少し目の前がくらんだ。 「っと、大丈夫ですか?」 澤開が倒れこんできた母樹を倒れないように支える。 「ん?あぁ・・・。」 ジャンル別一覧
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